日本語というものは、話す時の声も出し方や強弱、表情によって、同じ言葉でも違う意味があるように感じることがあります。
商売人同士が座って話をしている時に、たまたま隣の席でその人達の話し声を聞いていると、「ええっ!どういう意味なの?」と、思わずその人達の顔を見てしまうことがあります。
「そういう意図なのか!」と感心したり驚いたりでした。
例えば、買い手の人が値段交渉の最終段階で、「もう少し勉強してよ!」と食い下がっています。
「勉強して」とは「考え直して、安くして!」ということらしいのは分かりました。
売り手の方は、それに対して「よーく考えておきます」とのことでした。
考えておくというのは、考えるだけで実行しないことを暗示しているようです。
どうやら、結果的には値引きには応じなかったようで、買い手はまだ不満な様子で「次回は何とか考えてくださいよ!」とダメ押しをすると、売り手の人は「心掛けておきます!」と答えたのでした。
この時の「心掛ける」とは、どういう意味なのかピンときませんでした。
次回は、しっかりと値引きをするよという意味なのか、心に残しておくというだけで値引きはする気が無いのか、分かりませんでした。
️心がける、ってどういうこと?
「心がける(心掛ける)」とは、そもそもいつも心に留めておいて忘れないようにするとか、心に留めたことを目標にして努力することです。
若い男と付き合う時の心掛けとか、年上の男性と交際する時の心掛け、など何かをする時、行動を起こす時に大切なマニュアルのようなモノでしょうか。
それと同時に、何が起こるかを予測して、前もって心の中で考えて準備しておくことのようでもあります。
この「準備する」ことを「心掛ける」と置き換えることも出来そうです。
心掛けないで行き当たりばったりで行動して失敗してしまうと、「それ見ろ!日頃の心がけが大事なんだよ!」と年寄り連中からバカにされてしまうのです。
自分の中学生の弟が、期末試験の点数が悪かったと聞くと、「いつもあんたは遊んでばかりで、普段の心がけが悪いからよ!」と自分のことは差しおいて、母に代わって上から目線で説教する時の常套句なのです。
それを聞いていた母親が、「偉そうに注意するけど、お前も学生の時は心がけは良いとは思わなかったけどね!」とやり返されてしまいます。
この時の「心がけ」とは、勉強や私生活全般に渡って、心に決めたことをしっかりとやっていないことを差すようです。
何でも「心がけ」で表現できる素晴らしい言葉のようです。
心がけるの意味
「心がける」とは前項で説明したように、いつも心に留めて忘れないようにして、いつもそれを目指して努力することです。
心がける時は、そもそも何か失敗した経験があるか、失敗しそうな気がする時など、どちらかというとネガティブな感情の時に、気持ちを引き締めるような使い方をします。
失敗しないように(こけないように)心がける、などと使われます。
逆に成功を収めていても、いつ失敗するか不安な時にも、失敗しないように「心がける」と言うのです。
常に気に留めておく
いつも心に留めておくことが必要なんです。
しようと思っていることを、どんなことがあっても忘れないように、常に気に留めておくのです。
時々、何かのついでに思い出すようなことでは、心がけるとは言いません。
忘れることのないようにする
「心がける」というからには、少しのミスもしないという強い決意がいるのです。
新婚早々の二人では、旦那さんの料理の好みやお酒の肴などを覚えておいて、旦那さんが気分よく家で夕食を一緒に食べれるように、心がけるのです。
姑さんがいる家庭では、どちらとも上手く付き合うために、二人の性格や習慣を知っておいて、上手く行くように心がけるのです。
心がけは忘れてはいけないものなのですね。
ビジネスシーンでも良く見かける言葉
よくよく考えてみると「心がける」という言葉は、とても曖昧で便利な言葉だと思います。
上司が部下を集めてみんなに向かって注意を促す時などに、よく使われます。
例えば、「明日は社長が大事なお客様をお連れして、会社の様子を見学に来られるので、問題を起こさないように充分に心がけること!」と伝達します。
しかし、十分に心がけろと言われても、何に注意をしたら良いのか分かりません。
具体的に説明しなくて済むように、心がけろというのです。
つまりは、明日社長とお客様が来るのですよ、と言うことを心に留めておいていつも忘れないようにしなさい!と言いたいのです。
何か行動をしろとは言わずに、覚えておくようにという遠回しな表現なのです。
また、それに対して「はい心がけます」と返事をするのです。
目上の人に対しても使う
目上の人は、みんなが決められた仕事を、きっちりと遂行しているかを確認に来ます。
その時に、仕事が遅い社員を見つけると、「君の職場の彼女は、仕事をきっちりと素早く処理していて感心する。
君も、あれぐらいはできるように頑張りなさい」と叱咤激励するのです。
すると、注意された社員は、「はい、心がけます」と答えるのです。
具体的な行動の目標は明言しませんが、「いつも気を付けて頑張るようにします」という返事なのです。
上司の人に対しても、便利な言葉なのです。
️心がけるの類語
「心がける」という言葉の使い分けは、①決して忘れないようにする、②熱心に物事に取り組む、③間違ったことを繰り返さないようにする、の3通りがあるようです。
①の意味の同義語は「心がける、肝に銘じる、記憶する、留意する」などです。
②の場合は、「努力する、勉める」などがあります。
③の場合は、「反省する、自分に厳しくする、自戒する、律する」などです。
心に刻む
彼女は、長く付き合っている彼氏が、ボーナスが支給されたので、今週の土曜日の夜にフランス料理をご馳走すると言い出した。
熱心に誘うので、とりあげず自慢の服装で一緒にレストランに行きました。
奥のピアノの向かいの静かなテーブルに通されて、二人で料理を食べ始めました。
美しいピアノの生演奏を聴きながら、美味しいコース料理を食べ始めました。
食事のマナーを忘れかけていましたが、彼の指導で何とか食事も終わりに近づきました。
いよいよデザートかなと待っていると、不意にバイオリンを抱えた奏者が現れて近づいてきました。
あっけに取られていると、私のために愛の歌を弾いてくれるというのです。
うっとりと目を閉じて聴いていると、大きなバラの花束が届きました。
またまた驚いていると、何と彼が指輪を出してきてプロポーズされたのです。
もう頭の中は真っ白で、「はい」という返事をしたことだけははっきりと覚えているのです。
つまり、心に刻まれたのです。
心に刻まれるとは、印象に残るような良い思い出として忘れないことです。
胸に刻む
高校時代に仲良く部活をした親友で、お揃いのポーチやアクセサリーを持つ仲良しでした。
どこに出かけるのも、いつも一緒です。
しかし、ある夏休みの期間に悲報が届きました。
彼女は、何と自動車事故で不幸にも亡くなってしまったのです。
悲しみは相当なもので、家にいるといつまでも思い出が消えません。
そこで、大学進学に当たり、遠方の大学に合格したので寮住いにすることにしました。
いよいよ家を出る時に、親友の彼女の写真をカバンに詰めて、彼女の面影を胸に刻んで出発したのです。
胸に刻むとは、しっかりと思い出を記憶することです。
肝に銘じる
何事も行動がノロマな私は、起きてから家を出るまでに随分時間がかかります。
ある日、入学試験だというのに、ダラダラとしていたので受験票も忘れてしまいました。
慌てて母親に連絡して、タクシーに乗って届けてもらいましたが、時間ギリギリで何とか受験できました。
このことを肝に銘じて、テキパキと行動することにしたのです。
肝に銘じるとは、何か失敗をして、それを繰り返さないように心に記憶することです。
【肝に銘じるの意味は、こちらの記事もチェック!】
銘記する
「銘記する」とは、心にしっかりと刻み込んで記憶に残すことです。
心の代わりに、石碑や金属の道具や板に文字を刻み込むことも銘記すると言います。
読み方は同じですが、「明記する」という言葉もあります。
「明記する」とは、何かを登録する時に住所や氏名をはっきりと分かるように書くことです。
明記は誰もが読み取れるように明らかになっていますが、銘記の方は「今日の出来事を心に銘記する」などと自分の心に記憶するため、他人にははっきりとは読み取れないという違いがあります。
教訓などを心に銘記するという言い方は、深く銘記すると「肝に銘ずる」とも表現できます。
記憶する
「記憶する」とか「記憶に残す」という表現は、単に脳の一部に記憶として残しておくだけで、時間が経つと忘れてしまうものです。
つまり、「心がける」のように常に記憶に残して忘れないでおくこととは違った意味合いですね。
記録に残せば、誰もが振り返ってみることもできますが、記憶だけではちょっと曖昧な表現です。
だから、何か失敗をして上司から怒られたときに、「しっかり記憶します」と逃げの言葉に使われます。
何も具体的に約束や決意表明はしていないのですから。
留意する
「留意」というのは、してもしなくてもどちらでも結果の違いは分からない言葉です。
読んで字の如く、「心に留めておく、頭の片隅に置いておく」という程度の軽い表現なのですから。
もし、会社の大事な行事を有名老舗ホテルで行う時など、服装にはドレスコードがあります。
こんな時に、みんなに回覧で注意を呼び掛ける表現は「服装に留意」ではなくて「服装に注意」になります。
「留意」はちょっと覚えておいてね!という表現なのです。
【留意の意味については、こちらの記事もチェック!】
自戒する
「自戒する」とは、また難しい表現ですね。
普段の生活や手紙では、自戒などの表現は使わないですから。
何かの宗教の修行に出てくるような言葉の印象があります。
辞書で調べると、自分の衝動や欲望を意志で抑えることです。
かなり強い意志と決意が無いとできないことです。
世の中のほとんどの人は、自戒はなかなか出来ないことなので、失敗が多いようです。
その時には、それを振り返って反省する時の常套句が「自戒を込めて」という表現を使います。
ちょっと年下の失恋した女性の同僚に当てた手紙に「男というものは、本音は分からないものです。
すぐに素敵な男性が見つかりますよ!頑張って!自戒を込めて」というように使われます。
自戒を込めては、私も同じように気を付けて頑張るからと訴えているのです。
努力する
努力するという言葉は、「頑張る」と同じくらいよく使う言葉です。
ともかく、何とかしようと行動する時に、掛け声のように話す言葉です。
「あなたはどうするの?」と聞かれたり「できるの?」と言われると、必ず「努力します」というコメントが返ってくるのです。
結果は別として、その場は乗り切れる便利な言葉です。
勤しむ
読み方は「勤しむ(いそしむ)」ですが、私にはあまり縁のない言葉で、ほとんど使いません。
毎日、朝早くから会社に出かけていると、近くのお年寄りから「仕事に精が出ますね」と声をかけてくれます。
「勤しむ」とは、簡単に言うと「精を出す」とも言えます。
地味ですが毎日コツコツと続けて努力しているさまです。
「コツコツと頑張る」とでも表現できますね。
反省する
過去を振り返って、同じ失敗を繰り返さないように心に決めることです。
この言葉も、若い人はその場逃れのために、軽いノリで「反省しま~す!」と叫びます。
何かバカにされているようで、怒る気もしなくなるのです。
自省する
自省という言葉も、手紙やメールではあまり使わない言葉です。
自省とは、過去の自分の言動を振り返り反省することです。
同じ読み方の「自制」とは、自分の感情や欲望を抑えることですが、「自省」とは感情でなく言動を反省することなのです。
自省を使う文章では、「自省の念」という表現が一般的です。
反省しようという気持ちを伝える言葉で、「自省の念にかられる」(後悔する)などと使います。
堅苦しい表現だと思います。
脳裏に焼き付ける
「脳裏(のうり)に焼き付ける」とは、しっかりと記憶しておくという意味です。
何か大事故が起こった直後の現場をたまたま通過した時など、救助活動もまだ行われていない状況でひどい惨状を目の当たりにします。
そんな現場は、きっとあなたの脳裏に焼き付いた(頭から離れない)ことでしょう。
これは自然に焼き付いたのですが、あえて覚えておこうと自ら見つめることは、脳裏に焼き付けることになるのです。
️心がけるの使い方
「心がける」という言葉の使い方は、
①決して忘れないようにする
②熱心に物事に取り組む
③間違ったことを繰り返さないようにする の3通りがあるようです。
節電を心がける
節電をする目的は、電気代を安くすることと地球環境を守る(CO2の発生を抑える)ということです。
節電を心がけるというのは、熱心に取り組むという意味です。
整理整頓を心がける
自分の部屋や職場の整理整頓を心がけるという時には、全員がその意識を忘れないようにしようというメッセージになります。
コツコツ貯金とは、いい心がけだ
まさしく常にコツコツと取り組むこと、決して忘れないようにすることを「心がける」と表現します。
コツコツ貯金はその典型例ですね。
マナーへの心がけ
マナーやルールは、大きくなって忘れると恥をかきます。
恥をかかないために決して忘れないようにするのが心がけです。
栄養を心がけた食事
栄養のバランスは健康管理に欠かせないものです。
好き嫌いで偏った栄養を摂りすぎないように心がける(常に忘れないようにする)という意味です。
問題にならないよう心がけるべき
過去に何か問題が発生して、対応に苦労した経験があるようですね。
そんな反省から間違いを繰り返さないようにすることを「心がける」と言うのです。
謙虚な姿勢を心がけている
いつも謙虚にしておこう、謙虚さを決して忘れないように行動しようと決めたことを「心がけている」と表現したのです。
心がけが足りない
すぐに忘れてしまって継続して取り組めない、過去の失敗も振り返らないことを諭す時の常套句ですね。
叱咤激励の言葉です。
これからは健康的な生活を心がけます
不摂生な生活を過ごしたために、体調を崩した苦い経験があるのでしょう。
これからは心を入れ替えて、間違った生活を繰り返さない決意を「心がけます」と表現します。
️心がけという言葉の使い方を知っておこう
「心がける」という言葉には、次の様な3つの意味があると言いました。
①決して忘れないようにする
②熱心に物事に取り組む
③間違ったことを繰り返さないようにする
3つの意味の全てを含んで「心がける」と言うことも多いのですが、いつも覚えておいて物事に取り組むという決意を表す言葉なのです。
だから、軽い気持ちで「心がける」と言うと、あなたは軽い(信頼されない)人間だと思われますので、使う時にはご注意ください。