大人の小説が流行っている大きな理由のひとつは、今の日本全体を覆っている閉塞感です。

閉塞感に包まれた大人は、小説の仮想世界に身を投じて、『仮想体験』を味わうことで、ささやかな満足を得る『小心大人』になっています。

自ら行動し体験することに尻込みする、閉塞感特有の無力感に包まれている小心大人にとって、『リスクの無い仮想体験で主人公の役を演じる』ことができる『舞台』が大人の小説です。

無力感に包まれた大人が増えている現代において、大人の小説はうなぎ登りに流行っています。

また、大人自身の実生活では、あり得ない様々な刺激的な人間模様を見せてくれる『のぞき窓』の役割が大人の小説です。

一方、閉塞感に包まれた中にあって、人生への意欲を失っていない大人は、歴史小説に登場する主人公から、人生の成功哲学を学び取ろうとしています。

歴史小説を『人生の教科書』として、座右の銘にしている大人も少なくありません。

大人が書店で小説を選ぶ心境は『自分が登場人物になりたい』テーマの小説を手に入れようとします。

小説の世界は、大人にとって『リスクを負うこと無く何でもできる世界』と言えます。

恋愛体験を切望している大人は、恋愛小説を選び、小説の世界に自身を登場させます。

恋愛関係づくりには、順調に進まないことや裏切りなどのリスクを伴うことがあるため、実生活での『実恋愛』を避ける大人も居ます。

リスクが生じない小説の世界に自身を登場させることで、危ない橋は渡らずに『仮想恋愛』を体験できます。

まさしくバーチャル・ラブストーリーの世界でリスクの心配をせずに恋愛を愉しみたい大人にはピッタリです。

大人の小説の興味深いところは、読む人に『仮想恋愛』や『仮想肉体関係』、『仮想人間関係』、『仮想歴史体験』の世界へ誘ってくれるところです。

大人の小説が流行っています

今の大人たちは、時間が無い、お金が無い、冒険心がないため、リスクを伴う恋愛関係づくりを避け、自身を小説の主人公に仕立て上げて仮想体験で、ささやかな満足を味わっています。

大人たちは仕事漬けのため、プライベートの時間を持てないことが多いです。

プライベートで楽しむための金銭的余裕もなく、恋愛関係づくりへの意欲が湧かない大人にとって、小説は『助け船』と言えます。

女性も男性もお互いの恋愛関係づくりの中で起こるリスクを避けることを最優先にする傾向が強くなっています。

このため、実体験よりも、小説という『舞台』の世界に自分を登場させ、主人公を演じることで、リスクの伴わない恋愛体験を安心して味わうことができるのです。

大人が小説の世界に身を投じることで、自身の実生活では味わうことのできない、ササヤカな満足感と刺激を感じ取ろうとします。

大人の小説は、手軽に様々な人間模様を『仮想体験』できる『舞台』といえます。

1. 大人の小説とは?

大人の小説とは、閉塞感に包まれた世間を反映するかのように冒険を嫌い、リスクを嫌う大人にとって、『安全な仮想体験ができる世界』と言えます。

実生活での恋愛や色恋への意欲を喪失した大人が仮想体験のできる、『プライベート・ルーム』を小説が提供してくれます。

また、仕事漬けで疲弊し、プライベートを愉しむ意欲が失せていて、時間が無く、お金が無い大人にとって、小説の世界は『駆け込み寺』と言えます。

大人の小説は、自身が恋愛の主人公になれる『舞台』であり、色欲の世界の『のぞき窓』であり、歴史が語る『人生の教科書』になっているのです。

2. 多いジャンルは?

小説のジャンルは多岐にわたりますが、代表的なものとして3つ挙げることができます。

1つ目は、男女の熱い心が絡み合い、心を揺さぶる恋愛小説です。

2つ目は、歴史上の主人公の真摯な生き様から、人生の教訓として心を揺さぶる歴史小説です。

恋愛小説は、大人の世界で織りなされる男女間の熱い人間ドラマが展開していきます。

読み進むうちに自身が主人公になり切り、胸がワクワク高鳴り、感情の虜になっていくのが恋愛小説です。

歴史小説は、主人公の生きる姿が教えてくれる、『人生の教科書』と言えます。

時代の流れを背景として、世の中を動かし、時代に大きな影響を及ぼしてきた偉人の生き様を知ることで、人生の教訓を与えてくれます。

今の生活をもっと良くしたい、社会的地位をステージアップさせたいなどの向上心を抱いている、意欲のある大人にとって、歴史小説は大きなヒントをもたらしてくれる『宝庫』と言えます。

恋愛小説

書店で恋愛小説を手にした大人は、その瞬間、自身が主人公になることを妄想することがあります。

大人が恋愛小説を選ぶ心理状態は、自身が主人公になりたい恋愛ストーリー探し出し、現実の生活では味わうことのできない、燃える恋愛に心を熱くします。

実生活では恋愛経験をする機会が少ない大人にとって、恋愛感情で心を包んでくれる『空間』が恋愛小説です。

また、愛する人との恋愛関係を切望する大人にとって、小説の中で展開されるストーリーを、実生活での恋人つくりのお手本にすることもあります。

恋愛小説のストーリーも様々で、切ない身を焦がす結末を迎える内容や、バラ色の快い結末など、読む大人の実生活とのギャップがワクワク感を呼び起こします。

恋愛小説にハマり込むことで、実生活では味わえない刺激的な恋愛感情を愉しむことができます。

また、恋愛小説から、恋愛のキッカケをつかむヒントを読み取る大人もいます。

恋愛小説は、大人にとって、恋愛の耽美さと熱い刺激で『仮想体験』させてくれる、恋愛の『ビタミン剤』と言えます。

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歴史小説

歴史小説のテーマは、その時代を象徴する偉人が主人公となって、生き様を展開してくれる醍醐味があります。

歴史小説に登場する主人公は、身を置いた時代を背負いながら希有な生き様を繰り広げ、生き通すことの奥深さを教えてくれることから、人生の『教科書』と言えます。

日々の生活の中で、自らの生き方をステージアップさせるヒントを探し求めている大人にとって、歴史小説は『羅針盤』となります。

3. 読む人が増えている理由

閉塞感に包まれ、仕事漬けの生活に追われ、プライベートの時間を楽しむことを忘れてしまった無気力の大人たちが増えている中にあって、小説はイッ時のササやかな刺激を与えてくれる『栄養ドリンク』のような存在と言えます。

プライベートを満喫する意欲が湧かず、お金がない、外へ出たくない、部屋に籠もっていることの方が好きという大人にとって、小説は、部屋に居ながらにして様々な人間模様を『仮想体験』できる『舞台』を提供してくれます。

無気力な大人たちは、恋愛小説の仮想世界でお膳立てされたストーリーの主人公になり、
失恋のリスクを負うことなく、恋愛を仮想体験できます。

大人の小説は、実生活では味わえない、様々な人間模様の仮想体験の場を与えてくれる存在と言えます。

ケータイ小説が増えた

ケータイに代表されるインターネットの世界で繰り広げられる、多様なweb サイト上に溢れている情報の中から読みたい小説を探すことは容易です。

このため、時間を掛けて書店まで足を運ぶ必要もなく、自分の部屋にいながら好みの小説を見つけ出すことができます。

また、書籍をよりも安価なkindle版も数多くあることから、印刷物の小説を持ち歩くよりも、ケータイ小説は手軽と言えます。

無料小説が多い

『読む』ことをしなくなった大人が増えている状況の中で、小説業界は読者確保のため、小説に大人の目を向けさせる手段として、無料小説が増えています。

ケータイ、スマートフォンの普及により、人々の興味は読むことから見ることに移行している現状の中で、読むことに感心を抱く読者を増やすことが、小説業界における生き残り策になっているのです。

無料小説が増えているのは、読むことに、お金と時間を費やす大人が減ってきている時流に対抗する手段の表れと言えます。

短編で読みやすいものが増えている

小説を『読む』大人が減っていることに合わせて、長文で構成される長文小説が敬遠される傾向になっていると言われています。

また、ゲームの人気に象徴されるように、ストーリーの結果がすぐに現れることが好まれる時代になっています。

ですから、結論に至るまでの経緯が紆余曲折する長編物は敬遠される傾向があります。

このため、結論がすぐ出る短編物で、文章の構成が分かり易いものが、読みやすいものとして好まれます。

ゲームの人気が好調であることに象徴されるよういに、単調で結論が直ぐに分かるものが好まれる時代を反映して、小説も短編で、複雑ではない単調なストーリーが好まれます。

長編物は結論に至るまでに様々な人間模様が展開していくところが、小説フアンの心を捉えている所以でもあります。

しかし、結論を急ぎたい読者にとっては、読みやすい短編ものが好まれます。

4. 大人の小説の魅力とは?

大人の小説の魅力は、日頃、興味を抱いていることを、小説の世界の多様なテーマから自由に選べることです。

代表的なテーマは、次の3つあります。

1つ目は、人間模様の中でも、特に複雑な恋愛をテーマにしたもの。

2つ目は、社会的ステージアップの指針になる、偉人をテーマにした歴史もの。

大人の小説は、閉塞感漂う日々の生活の中で、いっときの安息感と刺激、そして人生のヒントを提供してくれます。

大人が小説を読むキッカケは様々です。

女性との快い恋愛を求める男性であれば、恋愛関係をスムーズに、または優位に運ぶために女性の心理状態を知る手がかりとして、恋愛小説を愛読することがあります。

恋愛小説の世界で繰り広げられる様々な人間模様の中で、女性が男性の心をどのように受け止めて反応、行動するのか参考にすることがあります。

また、企業の中でステージアップに意欲を抱いている大人にとっては、歴史小説の中で繰り広げられる、激動の時代を乗り越えてきた偉人の生き様を学びとることで、自身が成功するための羅針盤になります。

疑似恋愛が楽しめる

恋愛関係を愉しみたい大人は多いです。

しかし、恋愛関係が織りなす中では、失恋など、心が傷つくリスクは避けて通れないことがあります。

恋愛関係につきものの、失恋などのリスクを避けることを最優先にする大人は、実生活の中で恋愛関係づくりを避けることが少なくありません。

リスクを嫌う弱気な大人は、失恋などのリスクが生じない恋愛小説の世界に飛び込み、小説のストーリーに身を任せて、仮想の恋愛感情に浸ります。

恋愛小説の世界では、自身が失恋して心を痛めるなどのリスクが生じないため、安心してストーリーに身を任せて恋愛を愉しむことができます。

しかし、疑似恋愛は、実生活での人生経験を踏む事にはならないため、心の成長をもたらしません。

実経験の少なさは、心がコドモのままの大人を増やしていると言えます。

刺激を味わえてワクワクドキドキできる

恋愛小説やのストーリーに没入することで、自身の実生活ではあり得ない恋愛関係や愛欲関係に溺れることができます。

恋愛小説の中で繰り広げられるストーリーの主人公として、素敵な女性とのラブストーリーに心を熱くし、ワクワクドキドキする刺激を体感できます。

歴史小説では、時代の流れに翻弄されながら極限状態を乗り越える主人公になりきることで、極限状態を乗り越えて時代を創ってきた偉人の躍動感に心を振るわせ共感することができます。

大人の恋愛を学べて参考になる

恋愛小説で繰り広げられる様々な恋愛ストーリーの中には、読者の実生活では起こり得ない恋愛関係があります。

一方、自分の実生活の中で活かせる身近に感じるストーリーもあります。

恋愛関係には多様なかたちがあることから、自身の実生活で恋愛関係と向き合う際に参考となるストーリーもあります。

恋愛小説では、当人同士の恋愛感情の移り変わりが、読む人を飽きさせない構成になっていますので、小説を参考にする際には、実生活を冷静に振り返ることが大切です。

恋愛小説の主人公になり切り、自身の実態とストーリー上の主人公の仮の姿との区別がつかない混沌とした心理状態に陥ったときは、小説のストーリーを参考にすることは控えましょう。

実生活における恋愛関係では、当人同士の感情の絡み合いばかりではなく、身近な人からの干渉の影響を受けて振り回されることもあります。

ですから、当人同士の恋愛感情を中心として流れていく恋愛小説の中で繰り広げられる恋愛関係のかたちを安易に参考にしない冷静さが求められます。

恋愛小説で繰り広げられる様々な恋愛ストーリーでは、実生活ではあり得ないような、恋愛のかたちを仮想体験できますので、心もワクワクしてきますが、サラッと参考にする程度にしておきましょう。

歴史の知識が増える

歴史小説は、作者の綿密な下調べ調査に裏打ちされた奥深いストーリーの構成になっていますので、歴史を彩る登場人物の生き様から、その時代の様々な面を学び取ることができます。

作者は、その時代を特徴づけた出来事をエキスとして、歴史を創ってきた偉人を登場させ、時代背景を語ることがあります。

歴史に興味のある大人にとっては、歴史の知識を増やしていく『教科書』として、歴史小説は大いに役立つことでしょう。

大人の小説8選

大人の小説は、日常生活では満たされない欲求不満を解消してくれる、『のぞき窓』といえます。

大人たちが日頃抱えている欲求不満を解消してくれるテーマをもった小説を書店で探し求め、小説の『仮想世界』の主人公として自分を登場させて、自己満足に浸ることができます。

欲求不満を抱えた大人たちが主人公として登場できる『舞台』であり『のぞき窓』の役割をもつ大人の小説を幾つかご紹介します。

1. 『白いしるし』西加奈子

主人公である女性は、自身が『女』であることを持て余し抑えることができずに、身も心も熱く悶えていき、女の『性』を露わにしていく姿が印象的です。

女性の心も身も、自身の理性や抑えとは裏腹に暴走し出すことがテーマにあります。

主人公の女性は、暴走を始めた自身の内に秘めた『おんな』に振り回されながら狼狽する姿が展開されていきます。

女性の内に秘めた『おんな』が突如暴走し始めると、自身の理性では歯が立たなくなり、燃え立つカラダを男に向かって投げ出す『おんな』の心理状態が描かれています。

読者が男性なら、女性の繊細さを深く再認識させてくれることでしょう。

読者が女性なら、自身の内に秘めた『おんな』の暴走に理性が埋没しないよう、冷静さをもつことで、男から自身のカラダを守ることができます。

女性の『さが』の奥深さ、繊細さを教えてくれる、女性必見の小説といえます。

2. 『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子

繊細でデリケートな飾り気の無い素直さを秘めた女性の純粋な心模様を描いた内容になっています。

人と知り合うことが難しい時代背景の中で、安心して心を解放し人と親しくなることが難しい時代がテーマになった作品と言えます。

閉塞感に包まれた世の中にあって、人同士が疑心暗鬼になっていて、安易に心を許すことを警戒する風潮に身を置くデリケートな女性の心模様が描かれています。

真夜中の邪魔者の居ない部屋という自由空間の中で、一抹の淋しさを心の奥に押し込めた『心』を大切に抱えながら、自身の気持ちを共有できる男性の存在を密かに求めている主人公のデリケートな心理状態に共感する女性も少なくないことでしょう。

真夜中の時間は独り占めできる世界です。

邪魔者が居ない世界で自由を満喫できます。

人間模様の渦の中で翻弄されずに、自分の立ち位置や価値観を見失うことのなく平衡感覚を保とうとする主人公の繊細な姿があります。

昼間の世界は人同士が傷つけ合う世界。

一方、真夜中の世界は安らぎのある自由な世界という心理状態にありながら、自身の価値観や感性を共有できる男性との恋愛を切望する姿に共感する読者も居ることでしょう。

淋しさを秘めた真夜中の世界から昼間の世界へ引きずり上げてくれた男性との間に生まれた恋愛感情に翻弄される女性の繊細な姿が印象的なストーリーです。

3. 『植物図鑑』有川浩

「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。

噛みません。

・・・」の文面が象徴するように、恋愛小説でありながら、熱い場面もなく、女性の部屋に居候する男性が得意とする山菜料理のように、素朴な時間が淡々と流れていくストーリーです。

男性自身が山菜のような淡泊な味わいの持ち主であり、燃え上がる恋愛感情もなく、草食系男子の匂いを漂わせています。

恋愛小説に有りがちな、複数の男女の恋愛感情の交叉、肉体関係の交叉もなく、2人の世界が淡々と流れていきます。

タイトルになっている『植物図鑑』に象徴されるように、山菜や野菜の世界が下地に流れていて、山菜の素朴な味わい深さが、お互いの恋愛感情にも流れています。

ストーリーに流れている男女の関係は、恋愛関係というよりも『山菜関係』がピッタリする印象です。

登場する女性は仕事人間のように、休日の楽しみも特にない日々を送ってきて、突如、男性の居候を受け入れることになります。

居候し始めた男性から、身近な素朴な生活空間の中にこそ、実は、味わい深い時を過ごせる空間があることを知らされることになります。

山菜料理が醸し出す素朴で味わい深い料理と同じように、お互いの恋愛感情も熱くならずに素朴さを湛えながら時間が淡々と流れていきます。

まさに、タイトルどおりの、野草や山菜が主人公の『山菜』ストーリーといえます。

4. 『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦

主人公と後輩の女の子との、恋愛には至らない片想いの恋物語です。

主人公である学生が女の子にフラレたことを機に、ストーキングを始めるストーリーです。

自身のストーキング行為に、あえて『観察と研究』という理屈を並べる主人公のマニアックさが印象的です。

恋愛小説の面もありますが、主人公は腰を据えて後輩の女の子に向き合わないため、恋の域から抜け出せない、恋ストーリーになっています。

日々の生活の中で目的を見いだせず、何事にも積極的になれずに『浮き草』的生き方をする主人公に歯がゆさを抱く読者も少なくないでしょう。

失恋経験のある大人にとっては、読み進みながら共感をお覚えることでしょう。

また、主人公の人間像を浮き彫りにさせる役割として、お酒が登場しますので、お酒好きの読者にとっては、主人公の孤独な世界の虜になることでしょう。

5. 『恋愛中毒』山本文緒

離婚経験のある主人公が愛した男に捨てられ傷つき、ストーカーであった過去の姿がよみがえるストーリー展開が、意外性を伴って厚みのある物語になっています。

主人公である40代の女性が事務員の立場で、職場の男女模様をのぞき見する中で、戒めを自身に課すのですが、男なしには居られない淋しい女性の姿が浮き彫りになっていきます。

タイトルどおりの主人公の姿は、男に恋心を抱きながらも前夫の思い出が心に住みつき、男の間をさ迷う姿が印象的です。

報われない愛に翻弄され、淋しさを抱える女性の姿が、読者の心に深く刻まれることでしょう。

男性からの深い愛に包まれたことのない女性が、男の間をさまよい求め続ける淋しい女性の姿と、閉塞感が漂う世間の姿がダブってくるストーリー展開になっています。

6. 『壬生義士伝』浅田次郎

南部地方盛岡藩の脱藩浪士で新鮮組隊士が切腹に至るまでの心境の変化を題材とした歴史小説ながら、現代の時代設定と交差するストーリー展開になっています。

新鮮組という志を共にする同志の中にあり、出稼ぎ浪人と呼ばれている主人公の義理と愛を一途に貫く生き様をテーマにしています。

病に伏した妻と飢えた子供を抱えながら、妻子を食わせるために脱藩した主人公の嘆きの心境を語る言葉「貧と賤とを悪と呼ばわるか。

富と貴とを、善なりと唱えなさるか・・・ならばわしは、矜り高き貧と賤とのために戦い・・・断じて、一歩も退き申さぬ。

」が、主人公の生き様を物語っています。

現代に置き換えるなら、弱肉強食の格差社会に翻弄される人々の姿とダブルところがあります。

時代小説でありながら、現代との『合わせ鏡』のストーリーになっています。

現代流に置き換えるなら、会社に忠誠を尽くし、身をささげる仕事漬けのサラリーマンの姿とダブる面があります。

「お前だぢに死ねと言われれば、ちちは喜んで命ば捨つる・・・」という主人公の言葉が切ないです。

また、坂本龍馬を暗殺した犯人の憶測にまでストーリーが及んでいくなど、読者を飽きさせない気配りが感じられる内容となっています。

7. 『鬼平犯科帳』池波正太郎

斬り捨て御免の権限を持つ、江戸幕府の火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官が主人公です。

主人公の豪腕ぶりは、盗賊たちに「鬼の平蔵」と恐れられています。

しかし、「妾腹の子」として苦労をしてきて、義理も人情も心得た素顔を持ち合わせています。

『真の盗賊のモラル』が物語の『軸』になっており、『軸』を取り囲む登場人物の生き様が『軸』との隔たり具合として描かれており、ストーリーに深みを添えています。

『真の盗賊のモラル』をモノサシとして登場人物を描くことで、多様で露骨な人間臭さが漂っている非凡な生き様が展開されていきます。

8. 『もう一枝あれかし』あさのあつこ

夫に自害された妻たちの戦う生き様と、騙される幸せを手放せない遊女の運命など、思惑通りにならない女と男の『情』を情愛豊かに描き上げた、5つの短編からなる時代小説です。

男の生き急ぐ姿に翻弄されながら、逞しく生き続ける女の『性』が、女性の底力を醸し出す作品に仕上がっています。

共感を抱く読者も少なくないことでしょう。

作者が語る「この作品の登場人物は私自身の中から出てくるものだけで書いています。

「男の物語は裏を返せば女の物語だったのかなあ、と。」が印象的です。