大人たちが日頃抱えている欲求不満を解消してくれるテーマをもった小説を書店で探し求め、小説の『仮想世界』の主人公として自分を登場させて、自己満足に浸ることができます。
欲求不満を抱えた大人たちが主人公として登場できる『舞台』であり『のぞき窓』の役割をもつ大人の小説を幾つかご紹介します。
1. 『白いしるし』西加奈子
主人公である女性は、自身が『女』であることを持て余し抑えることができずに、身も心も熱く悶えていき、女の『性』を露わにしていく姿が印象的です。
女性の心も身も、自身の理性や抑えとは裏腹に暴走し出すことがテーマにあります。
主人公の女性は、暴走を始めた自身の内に秘めた『おんな』に振り回されながら狼狽する姿が展開されていきます。
女性の内に秘めた『おんな』が突如暴走し始めると、自身の理性では歯が立たなくなり、燃え立つカラダを男に向かって投げ出す『おんな』の心理状態が描かれています。
読者が男性なら、女性の繊細さを深く再認識させてくれることでしょう。
読者が女性なら、自身の内に秘めた『おんな』の暴走に理性が埋没しないよう、冷静さをもつことで、男から自身のカラダを守ることができます。
女性の『さが』の奥深さ、繊細さを教えてくれる、女性必見の小説といえます。
2. 『すべて真夜中の恋人たち』川上未映子
繊細でデリケートな飾り気の無い素直さを秘めた女性の純粋な心模様を描いた内容になっています。
人と知り合うことが難しい時代背景の中で、安心して心を解放し人と親しくなることが難しい時代がテーマになった作品と言えます。
閉塞感に包まれた世の中にあって、人同士が疑心暗鬼になっていて、安易に心を許すことを警戒する風潮に身を置くデリケートな女性の心模様が描かれています。
真夜中の邪魔者の居ない部屋という自由空間の中で、一抹の淋しさを心の奥に押し込めた『心』を大切に抱えながら、自身の気持ちを共有できる男性の存在を密かに求めている主人公のデリケートな心理状態に共感する女性も少なくないことでしょう。
真夜中の時間は独り占めできる世界です。
邪魔者が居ない世界で自由を満喫できます。
人間模様の渦の中で翻弄されずに、自分の立ち位置や価値観を見失うことのなく平衡感覚を保とうとする主人公の繊細な姿があります。
昼間の世界は人同士が傷つけ合う世界。
一方、真夜中の世界は安らぎのある自由な世界という心理状態にありながら、自身の価値観や感性を共有できる男性との恋愛を切望する姿に共感する読者も居ることでしょう。
淋しさを秘めた真夜中の世界から昼間の世界へ引きずり上げてくれた男性との間に生まれた恋愛感情に翻弄される女性の繊細な姿が印象的なストーリーです。
3. 『植物図鑑』有川浩
「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか。
噛みません。
・・・」の文面が象徴するように、恋愛小説でありながら、熱い場面もなく、女性の部屋に居候する男性が得意とする山菜料理のように、素朴な時間が淡々と流れていくストーリーです。
男性自身が山菜のような淡泊な味わいの持ち主であり、燃え上がる恋愛感情もなく、草食系男子の匂いを漂わせています。
恋愛小説に有りがちな、複数の男女の恋愛感情の交叉、肉体関係の交叉もなく、2人の世界が淡々と流れていきます。
タイトルになっている『植物図鑑』に象徴されるように、山菜や野菜の世界が下地に流れていて、山菜の素朴な味わい深さが、お互いの恋愛感情にも流れています。
ストーリーに流れている男女の関係は、恋愛関係というよりも『山菜関係』がピッタリする印象です。
登場する女性は仕事人間のように、休日の楽しみも特にない日々を送ってきて、突如、男性の居候を受け入れることになります。
居候し始めた男性から、身近な素朴な生活空間の中にこそ、実は、味わい深い時を過ごせる空間があることを知らされることになります。
山菜料理が醸し出す素朴で味わい深い料理と同じように、お互いの恋愛感情も熱くならずに素朴さを湛えながら時間が淡々と流れていきます。
まさに、タイトルどおりの、野草や山菜が主人公の『山菜』ストーリーといえます。
4. 『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦
主人公と後輩の女の子との、恋愛には至らない片想いの恋物語です。
主人公である学生が女の子にフラレたことを機に、ストーキングを始めるストーリーです。