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大人の小説8選(続き5)

自身のストーキング行為に、あえて『観察と研究』という理屈を並べる主人公のマニアックさが印象的です。

恋愛小説の面もありますが、主人公は腰を据えて後輩の女の子に向き合わないため、恋の域から抜け出せない、恋ストーリーになっています。

日々の生活の中で目的を見いだせず、何事にも積極的になれずに『浮き草』的生き方をする主人公に歯がゆさを抱く読者も少なくないでしょう。

失恋経験のある大人にとっては、読み進みながら共感をお覚えることでしょう。

また、主人公の人間像を浮き彫りにさせる役割として、お酒が登場しますので、お酒好きの読者にとっては、主人公の孤独な世界の虜になることでしょう。

5. 『恋愛中毒』山本文緒

離婚経験のある主人公が愛した男に捨てられ傷つき、ストーカーであった過去の姿がよみがえるストーリー展開が、意外性を伴って厚みのある物語になっています。

主人公である40代の女性が事務員の立場で、職場の男女模様をのぞき見する中で、戒めを自身に課すのですが、男なしには居られない淋しい女性の姿が浮き彫りになっていきます。

タイトルどおりの主人公の姿は、男に恋心を抱きながらも前夫の思い出が心に住みつき、男の間をさ迷う姿が印象的です。

報われない愛に翻弄され、淋しさを抱える女性の姿が、読者の心に深く刻まれることでしょう。

男性からの深い愛に包まれたことのない女性が、男の間をさまよい求め続ける淋しい女性の姿と、閉塞感が漂う世間の姿がダブってくるストーリー展開になっています。

6. 『壬生義士伝』浅田次郎

南部地方盛岡藩の脱藩浪士で新鮮組隊士が切腹に至るまでの心境の変化を題材とした歴史小説ながら、現代の時代設定と交差するストーリー展開になっています。

新鮮組という志を共にする同志の中にあり、出稼ぎ浪人と呼ばれている主人公の義理と愛を一途に貫く生き様をテーマにしています。

病に伏した妻と飢えた子供を抱えながら、妻子を食わせるために脱藩した主人公の嘆きの心境を語る言葉「貧と賤とを悪と呼ばわるか。

富と貴とを、善なりと唱えなさるか・・・ならばわしは、矜り高き貧と賤とのために戦い・・・断じて、一歩も退き申さぬ。

」が、主人公の生き様を物語っています。

現代に置き換えるなら、弱肉強食の格差社会に翻弄される人々の姿とダブルところがあります。

時代小説でありながら、現代との『合わせ鏡』のストーリーになっています。

現代流に置き換えるなら、会社に忠誠を尽くし、身をささげる仕事漬けのサラリーマンの姿とダブる面があります。

「お前だぢに死ねと言われれば、ちちは喜んで命ば捨つる・・・」という主人公の言葉が切ないです。

また、坂本龍馬を暗殺した犯人の憶測にまでストーリーが及んでいくなど、読者を飽きさせない気配りが感じられる内容となっています。

7. 『鬼平犯科帳』池波正太郎

斬り捨て御免の権限を持つ、江戸幕府の火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官が主人公です。

主人公の豪腕ぶりは、盗賊たちに「鬼の平蔵」と恐れられています。

しかし、「妾腹の子」として苦労をしてきて、義理も人情も心得た素顔を持ち合わせています。

『真の盗賊のモラル』が物語の『軸』になっており、『軸』を取り囲む登場人物の生き様が『軸』との隔たり具合として描かれており、ストーリーに深みを添えています。

『真の盗賊のモラル』をモノサシとして登場人物を描くことで、多様で露骨な人間臭さが漂っている非凡な生き様が展開されていきます。

8. 『もう一枝あれかし』あさのあつこ

夫に自害された妻たちの戦う生き様と、騙される幸せを手放せない遊女の運命など、思惑通りにならない女と男の『情』を情愛豊かに描き上げた、5つの短編からなる時代小説です。

男の生き急ぐ姿に翻弄されながら、逞しく生き続ける女の『性』が、女性の底力を醸し出す作品に仕上がっています。

共感を抱く読者も少なくないことでしょう。

作者が語る「この作品の登場人物は私自身の中から出てくるものだけで書いています。

「男の物語は裏を返せば女の物語だったのかなあ、と。」が印象的です。