では懸命を使った慣用句とは、一体、何になるのでしょう。
それは「懸命の地」という言葉です。
懸命の地、つまり中世の武士たちが先祖から代々伝わってきた自分たちの領地をあらゆる外敵や侵攻勢力から守るべく、戦い抜いた対象となる地のことです。
現代において「懸命の地」という言葉、あまり耳にしませんよね。
それよりも「一所懸命」の方がもっとポピュラーな存在として私たちに認知されていますよね。
ただ、言葉の語源にはそれを実証するのに十分すぎるくらいの長く大きな時間のうねりがありました。
法も秩序もなかった時代に領地を守るには、命を懸けてでも行う、という当時の緊迫したムードが漂ってきます。
一生懸命と一所懸命の違い
それではここで一生懸命と一所懸命の違いについて考えてみましょう。
語源的には一所懸命が先にできた言葉であり、一生懸命と混同されながらも、今の時代において日常で使われる一所懸命。
さて、どっちが正しくて間違っているのでしょうか。
それとも両者は全く同じ意味合いを持った世にも珍しい共存した言葉なのでしょうか。
もともとは「一所懸命」
時代的に考えると「一所懸命」の方が先に世に表れた言葉だというのはもうお分かり頂けると思います。
元々の言葉の語源は、領地を与えられていた中世の武士たちが、命を繋ぐ貴重な糧を奪われまいと命を懸けて守り通してきたところから出た言葉です。
「一所」が領地。「懸命」が命懸けで、という意味ですね。
それが時代の変遷とともに領地に対する価値観が変わってくることとなり、言葉自体の読み方の誤りなどによっていつしか「一所」が「一生」という読み方に変化してきてしまいました。
200年以上続いた江戸時代を経て明治の世になる頃には、領地を巡る争いというのはほぼ消滅します。
同時に人が命懸けで行う事も様変わりしてきました。
芸能の出現や近世に入ってからのビジネスの出現は、命を懸けてまで行うモノに多様性を帯びる事になってきました。
つまり、もはや領地だけに対して、生きていく上で命懸けで行う必要性がなくなり、変わって資本主義の世界における「仕事」を通しての夢や願望の実現という世界観に変わっていくのです。
どちらも正しい
そして今現在での見方を見ていきましょう。
「一所懸命」と「一生懸命」どちらを使うのが正しい日本語となっているのでしょうか?
正解は「どちらでもいい」です。
今現在の日本においては「一所懸命」でも「一生懸命」でも特に構わないようなのです。
試験においても、どちらが正解でどちらが不正解と言う明確な線引きは行われていません。
考えてみたら、今の時代において「一所」の由縁である「領地」なるものを所有する部族なるものが存在していません。
変わって私たちを命懸けにしている物は勉強であり仕事であり、恋愛ではないでしょうか。
そういう意味では、「一生懸命」という文字の方が使用する機会が、どちらかと言えば多いのかもしれませんね。
いずれにしても「一所懸命」でも「一生懸命」でも間違いではありません。
どちらの言葉も同じような感覚で使う事ができます。
一生懸命は分散型
使用場面で考えてみると「一生懸命」の方は比較的、広範囲のジャンルに使用できる言葉であると言えそうです。
それも特定の枠に収めず、どのようなシーン、カテゴリーにもうまく適合するように思えますね。
特に頻繁に用いられそうなのが勉強、仕事、スポーツなどの成果を求められる分野です。
そしてそれらは特定の期間中などといった感じでもありません。
その人の努力の及ぶ範囲であればいつでも、いつまででも有効期間は続きます。
またやっている事も一つだけに留まりません。
いろんなことを複合的に合わせながらやっている事全てに対して当てはまってきそうです。