②二つ目の意味は、相手の行動に感謝するという行為の反対の意味です。
つまり、「余計なことをしてくれて嬉しいよ」と皮肉を込めて伝える言葉です。
この使い方を心得ていれば、相手の気持ちも理解できるのです。
相手の親切・好意に恐縮する
こういう場面はよくあることです。
例えば、サークルリーダーとして頑張っているのですが、自分が計画してある自然公園に出かけて、そこで仲間8人でバーベキューを楽しもうとしたのです。
そのバーベキューの施設にも予約を入れて置いて、材料も手配して準備万端のはずだったのですが、当日の午前中に急用が出来てしまいました。
昼から合流できるのですが、それまでは誰かに代行してもらわなくてはなりません。
そこで、二つ年上の先輩にお願いして材料の仕入とバーベキュー会場の利用許可証を持参してもらうことにしました。
午前中は急用で抜けたのですが、その仕事をその先輩がキッチリと対応してくれて、無事にバーベキューを始めることができました。
その時にやっと会場入りしたわたしは、みんなに遅れたことを詫びた上で、その先輩には「代わりにやって頂き、痛み入ります」と謝辞を伝えたのです。
自分がやることを面倒がらずに親切にもやって頂いたその好意に感謝したのでした。
また、老いた母を連れて電車に乗った時に、前に座っていた紳士がサッと立ち上がり、「どうぞお座りください」と席を譲ってくれたのです。
そんな時には、「ご親切に痛み入ります」とお礼を言ってしまいました。
相手の温かい心に感謝したのでした。
このように、いろんな場面で、感謝の気持ちを真摯に伝えたいときに使う言い回しなのです。
相手の厚かましさにあきれる
「痛み入る」は、相手の遠慮のなさ、厚かましさに呆れる時にも使います。
例えば、何事にも自分中心で強引な人がいます。
何かの目的で集まる日を決める時にも、「今度の土日は予定があるし、来週も都合が悪いから再来週にしてほしい」などと注文をつけて、さらに「会場は〇〇駅前が都合がいい」と指定もする始末です。
リーダーは、まだみんなで何も話し合いもしていないうちから誘導されたことにムカッと来て、「ご提案痛み入ります」と答えたのでした。
相手の厚かましさに呆れてしまったようです。
また、参加も不参加も言っていないにも関わらず、ある会合への参加者が少ないという事情から、「君は参加すると届けておいたからね」と上司から言われたのです。
当日はたまたま家で用事があったのですが、それを嫌がる家内に頼み込んで出席することになるのです。
そのことが頭をよぎってしまい上司には「ご手配痛み入ります」と告げたのでした。
こちらの都合も聞かずに、参加者が足らないことを理由に強引に参加させるなんて、その配慮の無さに呆れてしまったのです。
直属の上司でもあったので、つい強引な行為にも了解せざるを得なかったのです。
「頼んでおいたからね」「OKと言っておいたからね」などと、事後報告の形で言われることが多いようです。
いらないおせっかいだと気分が悪くなるのです。
「痛み入る」の語源
「痛み入る」の「痛み」ですが、「痛み」という言葉と同じ発音の言葉「傷み」があります。
同じ発音の漢字のことを「異字同訓」と言います。
文字で見るとよく分かるのですが、声で聞くとそれだけでは区別はできません。
漢字では「傷み入る」などとは書きません。
そこで、まずは「痛み」と「傷み」の区別をしておきたいと思います。
「痛む」の「痛」に関して考えてみますと、「痛」を使う熟語は「頭痛」「胃痛」「腰痛」などとそれぞれが痛みを伴った言葉として表現されます。
頭が痛い、胃が痛い、腰が痛いなどと具体的な部位を指して痛みがあることを表現しています。
つまり、「痛」とは物理的な痛みに関して使われているのです。
つまり「痛む」とは、①病気や怪我で、身体に痛みを覚える時、②心に痛いほどの悲しみや苦しみを感じる時に使われます。
「痛み」とは、主に病気や怪我の時に使われて、心の病気の時にも「心が痛む」などと使われます。